那覇地方裁判所コザ支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人を懲役二年六月に処する。
領置してある自動小銃一丁(一九六八年押第二号)は没収する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
公訴事実中、被告人が暴力団山原派、普天間及び那覇派の各組員四、五〇名と共謀のうえ、一九六六年四月二八日名護町内において、暴行行為に導くと思料される行為をなしたとの点については被告人は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、通称「暴力団山原派」の幹部組員であつたが、かねてから同派は暴力団泡瀬派との勢力争い、又は各派組員間の殺傷事件等で抗争があり、更に一九六六年四月二二日の夜山原派の親分格である喜舎場朝信が泡瀬派の組員から拳銃で襲われるという事件が発生するや、泡瀬派に対する憤激が昂じ、その頃から暴力団山原派、普天間派及び那覇派の三派が連合して暴力団泡瀬派と抗争を続けるようになつていたところ、
第一、法定の除外事由がないのにかかわらず、犯意を継続し、
1一九六六年二月上旬頃コザ市照屋在オリオン映画館附近の裏通りにおいて、氏名不詳の黒人兵から米国製カービン銃一丁及び同銃弾約百発位を買受けてこれを不法に所持し、
2同年四月中旬頃金武村字金武九四番地金武診療所附近路上において、グリースガンと称する米国製短機関銃(一七七、八二八号)を不法に所持し、
3一九六七年一〇月下旬頃金武村字金武一六〇番地宮里福蔵方附近路上において、三二口径回転式拳銃一丁を不法に所持し、
第二、犯意を継続し、
1.一九六六年五月三日午後二時頃から同五時までの間に美里村字美里五八一番地玉那覇恵子方バー「胡蝶」において、自派組員親川文夫ほか二、三名、普天間派組合員島袋基ほか一名等と会合して「各配下の者を動員して、泡瀬派の資金源と目されているコザ市胡屋在の朝日パチンコ店及び盛商事を襲撃させて両店の営業を妨害する」旨の謀議決定をなし、右共同謀議に基づいて同日の午後八時頃各派から動員された組員多数が北中城村字島袋一八二番地喜納カマド方前のゴルフ場附近で集結し、同所において殴り込みに使用する棍棒、覆面をするためのマスクを準備したうえタクシーに分乗して同所を出発し、同日の午後八時過ぎ頃普天間組員宇良宗哲ほか四名は当時営業中の朝日パチンコ店(経営者喜友名良人)に乗り込み、所携の棍棒で多数のパチンコ機械を叩き割り、山原派組員平田清一ほか五名は棍棒を持つて、当時営業中の盛商事(経営者内間安盛)に殴り込みをかけて出入口のガラス戸を叩き割る等して右両店内を一時騒然とさせ、もつて威力を用いて右両店の各業務を妨害し、
2.同月二六日午後三時頃から午後五時頃までの間、宜野湾市喜友名在箱根レストランの日本間客室において、山原派幹部糸村直亀ほか四、五名、普天間派幹部村山吉松ほか一名及び那覇派幹部又吉茂夫ほか一名等と共に会合し、「泡瀬派との抗争に勝つためには、同派の資金源である遊技場等を潰す必要がある。それで同日の午後八時を期して各派の組員を動員し山原派は宜野湾市普天間在の普天間ビンゴ店及びコザ市胡屋在の一銀パチンコ店、普天間派はコザ市胡屋在のクラブ・ダイヤ及び同市諸見里在の島袋パチンコ店、那覇派はコザ市胡屋在の朝日パチンコ店にそれぞれ殴り込みをかけ、パチンコ店ではパチンコ機械を叩き割り、クラブ、ビンゴ店には汚物を投げ入れる等して、各店の営業を妨害する。」旨の謀議決定をなし、右共同謀議に基づいて同日の午後八時頃普天間派及び那覇派の各組員は当夜の殴り込みに使用する兇器、汚物等を準備してコザ市諸見里在の諸見里公民館前広場に集結し山原派組員が準備の都合で同所に集結しないうちに、右両派の組員は同所を出発して各派分担の目的地へ赴き、同日の午後八時過ぎ頃、那覇派組合員大城政秀ほか三名は当時営業中の朝日パチンコ店(経営者喜友名良人)へ乗り込み、所携のハンマーでパチンコ機多数を叩き割つて同店内を騒然とさせ、更に普天間派組員香村弘ほか一名は当時開店中のクラブ・ダイヤ(経営者玉木盛保)へ乗り込み、腐敗している家畜の臓物及び塩酸を店内に投げ入れ、同店内を一時騒然とさせると共に悪臭を漂わせたり汚穢する等し、もつて威力を用いて右両店の各業務を妨害し、
3.同年七月七日午後二時頃コザ市照屋在のハワイパチンコ店附近路上において、自派組員嘉手苅文一ほか二名と共謀のうえ、輩下の者に指示して泡瀬派の資金源と目されているコザ市胡屋在の朝日パチンコ店(経営者玉城健雄)の営業を妨害させようと企だて、自派組員川上勝男ほか四名に対し「右朝日パチンコ店へ赴き、従業員や客にいやがらせをして遊客を減らすようにし、営業を妨害して来い」と申し向けると共に金一ドル宛を交付し、右川上ほか四名をして威力を用いて同店の業務を妨害すべき旨教唆し、よつて右教唆に基づき右川上ら四名は同日午後二時過ぎ頃当時営業中の前記朝日パチンコ店に赴き、同店内においてパチンコ機械を叩いたり罵声をあげ、更にはパチンコ機械のガラスを叩いて破損する等して一時同店内を騒然とさせ、もつて右川上らをして威力を用いて同店の業務を妨害させ
たものである。
(証拠の標目)(省略)
(法令の適用)
被告人の判示第一の各所為にいずれも布令一四四号二・二・五、高等弁務官布令一四号二条に、判示第二の1、2はいずれも刑法六〇条、二三四条に、判示第二の3は刑法六〇条、六一条一項、二三四条に各該当するところ、判示第一及び第二の各所為はいずれも犯意を継続して行われたものであるから、一九六八年立法一三八号による改正前の刑法五五条により第一、二の各罪につき一罪として処断することとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上第一の罪と第二の罪とは刑法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役二年六月に処し、領置してある自動小銃一丁(一九六八年押第二号)は判示第二の2の罪の組成物件で且つ犯人以外の者に属しないことが明らかであるので、同法一九条一項、二項によりこれを没収することとし、訴訟費用については、刑事訴訟法一八二条一項本文によりその全部を被告人の負担とする。
(一部無罪部分の理由)
公訴事実中、一九六六年四月二七日那覇市上之蔵在暴力団那覇派親分又吉世喜方において、暴力団山原派、那覇派及び普天間派の幹部数名が会合してなした共同謀議に基づき、翌二八日被告人を含めた右三派の組員約四、五〇名が自動車に分乗し、恩納村伊武部ビーチを経て名護町内に乗り込み、同町在の琉映館附近において、泡瀬派の組員兼次佐保等を自動車に連れ込んで拉致する等し、暴行行為に導くと思料される行為をなしたとの点について検討することとする。
弁護人は、本件は布令一四四号二・二・一四に該当するものとして起訴しているが、同規定は日本国憲法、大統領行政命令、琉球政府章典に規定された基本的人権条項に違反して無効である旨主張しているが、それについての適否の判断はさておき、先づ証拠上認められる被告人らの所為が布令一四四号二・二・一四にいう暴行行為に導くと思料される行為に該当するかどうかについて検討することとする。
本件に関する証拠、即ち村山吉松、島袋基、糸村直亀、与那嶺晃、比嘉盛宗及び大城孝章の検察官に対する各供述調書、司法警察員恩河旨誠、同羽地利仁各作成の捜査報告書、被告人の司法警察員に対する供述調書(一九六七年二月七日付)を総合すれば次の事実が認められる。
即ち、一九六六年四月二七日午後四時頃那覇市上之蔵在暴力団那覇派親分又吉世喜方において、同人及び那覇派幹部又吉茂夫、山原派幹部糸村直亀及び被告人、普天間派幹部島袋基等が会合して喜舎場朝信襲撃事件についての善後策を協議し、その際右襲撃事件の犯人と目されている平良清秀らは、名護町在の泡瀬派幹部具志堅興善の支配下にかくまわれているとの情報があつたので、各派から組員多数を動員し、ピクニックを装つて恩納村在の伊武部ビーチへ赴き、同所において全員集結のうえ名護町内へ行き、右平良清秀らを捜し出して警察へ引渡すこととするが、その際武器その他の兇器は所持しない旨の決定をなし、その決定に基づいて各派組員にその旨の連絡をなし、そして翌二八日被告人を含め各派から動員された約四、五〇名の者は自家用乗用車又はタクシーに分乗して伊武部ビーチへ行き、同所で一旦集結した後名護町内へ赴き、同町内においては車を徐行したり、停車し或いはそのうち一部の者は車から降りて行つて具志堅興善等の所在を尋ね歩く等し、更に普天間派組員与那嶺晃、山原派組員西江秀夫等は泡瀬派の組員兼次佐保ら二、三名の者を無理やり車に乗せて羽地村在の採石場附近まで連れて行き、同人らに対して右平良清秀らの所在を問いつめたりしたものであるが、右兼次らを無理やりに車に連れ込んで行つていろいろと問いつめたこと等に関しては、その行為者を除きその他の者は、そのことについての具体的な協議又は共謀の事実があつたとは証拠上認められない。
なお、被告人は本件当日自派組員糸数宝昌、親川文夫らと共に被告人の車に同乗して名護へ行つたのであるが、前記泡瀬派の組員らを車に連れ込んで行つたグループとは行を共にしておらず、又そのことに関しては名護町内を引きあげるまで関知してなかつたことが認められる。
ところで、布令一四四号の制定趣旨はアメリカ合衆国の沖繩統治の安全確保と同国及びその協力関係にある自由主義諸国の防衛のためとして沖繩内に設置されている軍事基地の安全を保持することをその基調としているものと推察され、そして同布令に規定されている犯罪は、主にアメリカ合衆国軍隊及び軍隊要員の身体、生命、財産、その他の安全を確保することをその被害法益としている。そこで同布令二・二・一四に規定している「公の騒乱を惹起するか又は暴行行為に導くと思料される行為」ということがいかなる犯罪であるかについて考えて見るに、その条文自体からはその被害法益が奈辺にあるのか明らかではないが、前記本布令の制定趣旨、その他本布令に規定している他の犯罪との有機的な関連性等からすれば、どちらかと言うと前記制定趣旨に関連したいわゆる社会的法益に対する罪ということに解されるところ、具体的には同条にいう「公の騒乱を惹起する………」とは少なくとも客観的に見て多数の者が集合し、かなりの規模又は地域に亘つて不当な騒ぎを惹起することを意味し、又同条にいう「暴行行為に導くと思料される行為」とは、前記公の騒乱に関連するか或いはそれに接着する状態で暴行行為(いわゆる暴力行為と大体同義に解する)がなされるおそれが十分にあることを意味し、しかして単なる個人的法益としての身体、財産に対するものは本条の被害法益の対象とはならないと解するを相当とする。
ところで、前記認定のとおり被告人らは本件当日喜舎場朝信襲撃事件の犯人と目されている平良清秀らを捜し出して警察へ引渡すという目的で名護へ行つたのであるが、その際一部の者が泡瀬派組員を無理やりに車に連れ込んで行つたことは別とし、若し相手方が任意の同行を拒んだとき、その者を無理やりに連行した場合いわゆる不法逮捕等の事案が起りかねないということが予想できないではないが、はたして当日名護へ行つた全員の間でこれを敢行しようという意思があつたのかどうか、又そのような協議がなされたものかどうか証拠上認めることができないし、その他には具体的にどのような暴行行為をなそうとしていたのか明らかでない。そうすると、以上の事実関係からしては、被告人らの本件所為が布令一四四号二・二・一四にいう暴行行為に導くと思料される行為に該当すると認めることはできない。
従つて本件について被告人は無罪ということに帰するので、刑事訴訟法三四二条により無罪の言渡しをすることとする。
よつて、主文のとおり判決する。